かつて「悪の枢軸」と名指しされ、アメリカ・イギリスの攻撃によってはじまった2003年のイラク戦争と、続く泥沼の治安維持戦争は一応の決着を見せ、駐留していたアメリカ軍も2011年に撤退を成し遂げたことで国家としての再出発を果たしました。
そのイラクの基幹産業と言えるのが原油採掘とその輸出です。今回は基幹産業である原油産業の現状と先行きについて見てみましょう。

イラクの原油産業の現在

1991年の湾岸戦争と2003年のイラク戦争により、それまでのサダム・フセイン体制をアメリカにより放棄させられ民主主義国家となったイラクは、戦後復興を豊富な埋蔵量を誇る原油資源に頼ることとなります。
イラクの原油埋蔵量は確認されている埋蔵量だけでも1150億バレルとも言われ、これはサウジアラビア、カナダ、イランに次いで世界第4位の埋蔵量を誇ります。

しかしこれだけ豊富な埋蔵量があるものの、2度の戦争により採掘・精製施設の破壊と老朽化や社会情勢の混乱が激しく、生産量は平常時に想定される生産量の2割減程度の生産量で推移しています。
それでも2015年の最新の統計によると、OPEC加盟国の中でも2番目となる日量400万バレルの生産量を達成しています。
しかしアメリカのシェール革命や世界経済の減速傾向による原油需要の減少にともなって供給がだぶつき、1バレル=40ドル台と原油価格が低迷している現在、更なる原油増産は生産量の回復によるメリットを上回るデメリットをもたらすとして、更なる増産には慎重な声も聞かれます。

治安悪化による過激派の浸透と資源の奪い合い

採掘・精製施設の破壊と老朽化と並んでイラクの原油生産のリスク要因としてにわかにクローズアップされているのが、社会情勢の混乱です。
特にイラク戦争後の治安維持の失敗と、2013年に発生した中東各国で発生したいわゆる「アラブの春」によって急激に勢力を伸ばした幾つかのイスラム過激派の中でも、ISIS(Islamic State of Iraq and Syria = ダーイッシュ(イスラム国))の浸透と破壊活動は激しく、発生地であるシリアに隣接するイラク北部の相当な部分がイラク政府の支配を離れ、ISISの領域として占拠されています。
ISISの主な資金源として言われているのが、2014年8月に世間の注目の的となった人質事件に代表されるように支配地域にいる外国人ジャーナリストや軍人を人質とすることで身代金を要求する身代金ビジネスや支配地域からの税金の強制徴収など、様々な手段があります。
中でも国際社会で問題視されているのが、イラクの支配地域にある原油資源の密貿易であり、その利益は1日で200万ドル(約2億円)とも言われています。
このように不当な占拠を続けるISISに対してイラク政府は徹底的な組織の殲滅を目指して攻撃を続けていますが、イラク軍の能力の低さや複雑に入り乱れた中東情勢に影響されて、一進一退の攻防を続けています。
しかし2015年11月に発生したフランス同時多発テロにより、それまで足並みの揃わなかった主要国が一致してISISへの空爆をはじめました。ロシアに至っては空爆だけではなく地上軍の派遣を開始しているとの報道もあり、今後の動向が注目されます。

おわりに

イラク戦争によるフセイン体制の崩壊以後、再建されたイラクをめぐっては様々なリスク要因がありますが、インフラ再建をはじめとする巨額投資の案件が数多くあるため、有望な投資先の1つであり、大きな驚異であるISISへの対処がうまくいけば大きな障害はなくなると思われます。